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 はじめに

 昨今のわが国は戦後最大の変革期を迎えており,さまざまな法令の改廃・制定が行われています。ご案内のように,行政書士試験の施行に関する定め(総務省告示)によれば,法令等の科目は,「試験を実施する日の属する年度の4月1日現在施行されている法令に関して出題」されることになっていますが,今年の行政書士試験に出題される可能性のある法令の制定改廃としては,いわゆるADR基本法,地方自治法の一部改正があります。


 ADR基本法の施行

 平成16年に成立した「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(平成16年法律151号)が平成19年4月1日から施行されました。
 同法は,一般にADR基本法と称されています。ここにADRとは,”Alternative Dispute Resolution”の略で,直訳すると「代替的紛争解決」となりますが,わが国では,一般に「裁判外紛争解決手続」と訳されています。

1 ADRとは
(1)ADRの具体例
 ADRの内容は多義的であり,市町村役場や弁護士会などで行われている「法律相談」もこれに含める見解もありますが,ADR基本法では,「訴訟手続によらずに民事上の紛争を解決しようとする紛争の当事者のため,公正な第三者が関与して,その解決を図る手続」と定義されています(同法1条)。
 ADRは,その提供主体により,司法型(例えば,簡易裁判所による民事調停,家庭裁判所による家事調停),行政型(例えば,労働局による調停・調停。仲裁・あっせん,自治体の消費生活センターの相談・あっせんなど),民間型(交通事故紛争処理センターや弁護士会などによる調停・仲裁・あっせんなど)に分類することができます。ADR基本法の施行を契機として,多様な民間型ADRの誕生が期待されています。

(2)ADRの特徴
 厳格な手続によって行われる裁判と比較したときのADRの特徴としては,簡易・迅速性,廉価性,秘密性,専門性,宥和性などが挙げられます。
 ただ,ADRは当事者の合意に基礎をおく紛争刑決手続なので,合意が成立しないときは裁判によるほかなく,またADRで紛争が解決したとしても,当事者がこれを任意に実行しないときはADRには執行力がないため,裁判所に助力を求めるほかないという難点もあります。

2 ADR基本法の概要
 ADR基本法は,34か条からなる法律で,定義規定,ADRの基本理念等,国等の責務を明らかにした総則規定(第1章)と,民間ADRの認証に関する諸規定等(第2章以下)と大きく2つの部分から構成されています。
 第1章はADR基本法としての規定であり,司法型,行政型,民間型のすべてのADRに適用されますが,第2章は民間型ADRを活性化し利用の促進を図るための規定となっていますので,民間型ADRにのみ適用されます。

(1)総則規定
@ 定義規定
 まず,ADR(裁判外紛争解決手続)とは,「訴訟手続によらず民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため,公正な第三者が関与して,その解決を図る手続」と定義されました(1条)。
 よって,紛争の一方の当事者にのみ助言等を与える相談業務はADR基本法の規制の対象外となります。
 次に,第2章以下の規定が適用される民間型ADR(民間紛争解決手続)は,「民間事業者が,紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について,紛争の当事者双方からの依頼を受け,当該紛争の当事者との契約に基づき,和解の仲介を行う裁判外紛争解決手続」とされ(2条1号),そのうち,和解の仲介を行う者を「手続実施者」(2号),法務大臣の認証を受けて業務として行うADRを「認証紛争解決手続」(3号),法務大臣の認証を受けてADRを業として行う者を「認証紛争解決事業者」(第4号)と定義されています。

A 基本理念等
 ADRは,「紛争の当事者の自主的な紛争解決の努力を尊重しつつ,公正かつ適正に実施され,かつ,専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図るもの」とされ(3条1項),ADRを行う者は「相互に連携を図りながら努力するように努め」なければならない旨の規定がおかれています(同条2項)。
 この規定は,多様なADRに共通する基本理念を明らかにし,これを提供する者の間の連携協力を唱えることにより,ADRを裁判と並ぶ「魅力的な選択肢」として国民に定着させる必要があることから置かれたものといわれています(早川吉尚ほか編「ADRの基本的視座」63頁)。

B 国等の責務
 国は,ADRの利用促進を図るため,「内外の動向,その利用の状況その他の事項についての調査及び分析並びに情報の提供その他の必要な措置を講じ」,「国民の理解を増進させるように努め」(4条1項),地方公共団体は,「住民福祉の向上に寄与することにかんがみ,国との適切な役割分担を踏まえつつ」,ADRに「関する情報提供その他の必要な措置を講」じることになっています(同条2項)。

(2)民間ADRの認証等
@ 認証制度の導入
 民間型ADR機関は,「その業務について,法務大臣の認証を受けることができ」ます(5条)。  この認証については,国(法務省)の関与がこれまで以上に強まるとともに,いわゆる格付けにつながり,民間紛争解決手続の自主性・多様性が阻害されるのではないかとの懸念の中,最終的には認証制度が導入されました(小林徹「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」ジュリスト1285号28頁)。

A 認証の基準
 認証を受けることは義務的ではありませんが(5条は「法務大臣の認証を受けることができる」と規定する),認証を受けるには,詳細に規定された認証の要件や欠格事由をクリアしなけばなりません(6条・7条)。
 そのうち重要な点は,ADR手続を現実に実施する者が弁護士でない場合には,「法令の解釈適用に関し専門的知識を必要とするときに,弁護士の助言を受けることができるようにするための措置を定めていること」です(6条5号)。

B 認証紛争解決事業者
 法務大臣の認証を受けたADR機関は,「認証紛争解決事業者」として,弁護士法72条(非弁活動の禁止)の適用が除外され,当該ADR業務に関して報酬を得ることができ(28条),後述する時効の中断効などの法的効果が生じます。
 他面,認証紛争解決事業者には種々の義務が課され,かつ法務大臣の監督を受けることになります(14条〜24条)。

(3)認証紛争解決手続の利用に係る法的効果
 認証紛争解決事業者による解決手続の重要な法的効果として,時効の中断,訴訟手続の中止,調停前置主義の適用除外があります。

@ 時効の中断
 認証紛争解決事業者によるADR手続が不調に終わった場合でも,その通知から1月以内に紛争当事者が訴えを提起したときは,ADRの請求の時にさかのぼって時効が中断します(25条)。この時効の中断効は,例えば不法行為の3年の時効期間が迫っているような場合に,実益があるものといわれてます。

A 訴訟の中止
 認証紛争解決事業者によるADR手続と訴訟が並行している場合において,両当事者の共同の申立てがあれば,裁判所はその裁量により,係属している訴訟手続を中止することもできます(26条) 。

B 調停前置主義の適用除外
 認証紛争解決事業者によるADR手続が不調に終わったために,訴えが提起された場合には,例えば,婚の訴えのように調停前置主義の適用される訴えであっても,原則として調停に付すことなくそのまま審理されます(27条)。



 地方自治法の一部改正

 地方自治法はすこぶる改正の多い法律ですが,今年の試験に直結する法改正(平成19年4月1日施行)としては,地方自治法の一部を改正する法律(平成18年法律53号)による改正があります。その骨子は次のとおりです。

1 用語の整理
 古い用語方や頻繁な法改正の結果バラバラに使用されていた用語方が,次のように整理されました。

基く→基づく,  除く外→除くほか,  負担附き→負担付き,  斡旋→あっせん,  綜合調整→総合調整,  急施→緊急,  予め→あらかじめ,  特別の定→特別の定め,  その定→その定め,  吏員→職員,  これをして→これに,  たる職員→である職員,  事務引継→事務の引継ぎ,  たる職員→である職員,  呈示→提示,  呈示期間→提示期間 など

2 副知事・助役制度の見直し
(1)市町村の助役は,副市町村長に改められました(161条1項)。
(2)副知事,副市町村長の定数は,条例で定めます(161条2項)。
(3)副知事,副市町村長の職務として,次の2点が追加されました(167条)。

  @普通地方公共団体の長の命を受け政策及び企画をつかさどること。
  A普通地方公共団体の長の権限に属する事務の一部について,委任を受け,事務を執行すること。

3 出納長・収入役制度の見直し

@出納長・収入役は廃止され,代わりに会計管理者が置かれます(168条1項)。
A会計管理者は,法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,当該普通地方公共団体の会計事務をつかさどります(170条1項)。

4 吏員制度の廃止
 従前の「吏員」は,すべて「職員」と称することになりました(172条1項,173条)。

5 監査委員制度の見直し
 識見を有する者から選任する監査委員については,条例でその数を増加することができることになりました(195条2項・196条)。

6 財務に関する制度の見直し
(1)指定代理納付者による納付制度の創設
 普通地方公共団体は,納入義務者が,指定代理納付者(クレジットカードの事業者など)が交付し又は付与する証票その他の物又は番号,記号その他の符号を提示し又は通知して,指定代理納付者に歳入を納付させることを申し出た場合には,これを承認することができることとされました(231条の2第6項・7項)。

(2)行政財産の貸し付け,私権設定の柔軟化
 普通地方公共団体は,次の場合において行政財産を貸し付け,または私権設定をすることができることになりました(238条の2第2項)。

@当該普通地方公共団体以外の者が行政財産である土地の上に当該土地の供用の目的を効果的に達成することに資すると認められる堅固な建物等を所有し,または所有しようとする場合において,その者に当該土地を貸し付けるとき。
A普通地方公共団体が国,他の地方公共団体又は政令で定める法人と行政財産である土地の上に一棟の建物を区分して所有するためその者に当該土地を貸し付ける場合。
B普通地方公共団体が行政財産である土地及びその隣接地の上に当該普通地方公共団体以外の者と一棟の建物を区分して所有するためその者に当該土地を貸し付ける場合。
C庁舎等の床面積又は敷地に余裕がある場合として政令で定める場合において,当該普通地方公共団体以外の者に当該余裕がある部分を貸し付けるとき。
D行政財産である土地を国,他の地方公共団体又は政令で定める法人の経営する鉄道,道路その他政令で定める施設の用に供する場合において,その者のために当該土地に地上権を設定するとき。
E行政財産である土地を国,他の地方公共団体又は政令で定める法人の使用する電線路その他政令で定める施設の用に供する場合において,その者のために当該土地に地役権を設定するとき。

(3)信託をすることができる財産の範囲の拡大
 普通財産のうち国債その他の政令で定める有価証券は,当該普通地方公共団体を受益者として,指定金融機関その他の確実な金融機関にその価額に相当する担保の提供を受けて貸し付ける方法により運用することを信託の目的とする場合に,信託することができることになりました(238条の5第3項関係)。

7 長または議会の議長の全国的連合組織に対する情報提供制度の創設
 各大臣は,その担任する事務に関し地方公共団体に対し新たに事務又は負担を義務付けると認められる施策の立案をしようとする場合には,地方公共団体の長又は議会の議長の全国的連合組織が内閣に対して意見を申し出ることができるように,当該連合組織に当該施策の内容となるべき事項を知らせるための適切な措置を講ずることになりました(263条の3第5項)。

8 議会の活性化
(1) 専門的知見の活用
 普通地方公共団体の議会は,議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のために必要な専門的事項に係る調査を学識経験を有する者等に依頼することができるようになりました(100条の2関係)。

(2) 議長の臨時会の招集請求権
 議長は,議会運営委員会の議決を経て,当該普通地方公共団体の長に対し,会議に付議すべき事件を示して臨時会の招集を請求することができるようになりました。議長の請求があったときは,長は請求のあった日から20日以内に臨時会を招集しなければなりません(101条第2項・4項)。

(3)委員会制度

@議員は,少なくとも一の常任委員になることとされました(109条2項)。
A議長は,閉会中においても,条例で定めるところにより,常任委員,議会運営委員,または特別委員を選任することができるようになりました(109条3項,109条の2第3項,110条3項)。
B常任委員会,議会運営委員会又は特別委員会は,議会の議決すべき事件のうち,その部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関するものにつき,議会に議案を提出することができるようになりました(109条7項,109条の2第5項,110条第5項)。

(4)専決処分の要件の明確化
 普通地方公共団体の長は,議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるときは,議会の議決すべき事件を処分することができます(179条1項)。

9 中核市の指定要件の緩和
 中核市の指定の要件のうち面積要件(100平方キロメートル以上)が廃止され,中核市は「政令で指定する人口30万人以上の市」とされました(252条の22第1項,252条の23)。

10 派遣職員の退職手当の負担
 派遣が長期間にわたる等の場合に,協議により,派遣先の普通地方公共団体が派遣職員の退職手当を負担することになりました(252条の17関係)。


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