■ 受験生からの質問
法令の択一の問題は,私にとっては「詐欺的な問いかけ」であり,それなりにテキストを学習したのに,正解に達することはできません。どうすればよいのでしょうか。
あなたのジレンマはよくわかります。 法の世界は,1+1=2というような必然的な世界ではなく,「〜の場合には〜できる(できない)」という当為の世界ですから,本来は論文式の問題で問うのが至当なのですが,論文式だと採点が大変なため,多くの資格試験では択一試験(○×試験)で行われています。
択一試験では,結論が△となってはならないので,合格レベルの者であれば,だれが考えても同じ結論になるように,問題文の言い回しが工夫されています。そのため,「詐欺的な問いかけ」と言いたくもなりますが,上述した事情がありますので,仕方のないことです。
ではその対処法如何ということになりますが,それは,テキストの説明の理解に努められ,その上で数多くの問題練習をされ,多くの「ヒッカケ」にのられることです。これなくして,頭の中でいくら方法論を追及されても,つまるところ畳上の水泳論になってしまいます。そうはいっても,これだけでおしまいにしたら,不親切とのお叱りを受けそうですから,いくつかのヒントを提供します。
目 次
1 択一問題の特性
@択一問題の結論は,○か×であり,△の領域はありません。
仮に△の領域があるとすれば,それは出題者の出題ミスであるか*,解答者の判断ミスであることになります。
*作問者は印刷直前の段階で,△になりそうな肢を発見したときは,「つねに」などの文言を付して急場をしのぎます。
A5肢の択一問題では,仲間の肢が4つ,仲間はずれの肢が1つあります。
ですから,仲間はずれの肢を探し出すことができれば,正解に達します。ただ,あちこちにヒッカケの文言を配してあるので,これを見抜きながら仲間はずれの肢を探す必要があります。
2 判断のモノサシ
法令の択一問題は,問題文を,モノサシに当てはめて,その正誤を出します。
そのモノサシは,順に,@基礎理論→A条文→B判例→C常識論です。
すなわち,次の手順によります。
@問題文(事実)を,基礎理論により分析し,
Aそれにふさわしい条文に当てはめます。
Bピッタリ当てはまる条文がなければ判例にしたがいます。
Cこれら条文や判例を思い出すことができなければ,最後の手段として「エイヤ」と常識論で至当と思う肢を正解肢とします。
社会経験の豊かな方は,@〜Bの手順を省略して,いきなり,Cの自己の豊富な経験則で判断される傾向がありますが(例:H12-27@は○とするが如し),これはゼッタイに避けてください。出題者はこのような傾向をとっくに見越した上で問題文を作っています。
3 択一式の出題形式
行政書士試験の択一式は,次表のような形式で出題されています(分類は私の用語方であり,予備校などでは違った言い方がなされているかも知れません)。
| No. |
形 式 |
対 象 |
問題本文 |
特 徴 |
具体例 |
| 1 |
正誤一肢選択型 |
知識 |
○(×)の記述はどれか |
最も出題の多いオーソドックスな問題 |
H18-2,3,6,7,8,9....など多数 |
| 2 |
正誤個数選択型 |
知識 |
○(×)の個数はいくつか |
正確な知識が問われる問題 |
H18-2,4,7,28,31,32 |
| 3 |
正誤組合せ選択型 |
知識 |
○(×)の組合せはどれか |
相対的な処理可能な事務処理型の問題 |
H18-33,34,36,37,39 |
| 4 |
穴埋め選択型 |
知識 |
空欄に入る適切な語句の組合せはどれか |
相対的な処理のできる問題 |
H18-1,25 |
| 5 |
論理選択型 |
論理 |
〜と考えられるものはどれか |
知識に頼らず柔軟な現場処理能力を問う問題 |
H18-5 |
| 6 |
法的構成評価選択型 |
知識+ 論理 |
次の○○の趣旨に照らして妥当と考えられものはどれか |
ある法的構成(判例)からの結論等を推認させる問題 |
H16-4,H17-4 |
択一式の出題で最も多いのは1で,次に多いのが2,3です。ですから,正誤問題をきちんと処理できることが基本となります。そこで,以下,主として正誤問題の解答手法をコメントします。
1 問題全体を観察すること
行政書士試験の択一式は五肢択一で行われますので,イキナリ各肢の個別チェックに入ることなく,その問題全体を縦に眺めください(読むのではなく,文字どおり問題全体を縦に眺めて観察するのです。)。
この観察の際に確認してもらいたいことは,各肢の文の長さ,文頭の主題,文末の述語(例えば,「できる」「できない」,「違憲である」「無効である」「有効である」など)です。
この観察は,仲間はずれの肢を短時間で見つけるのにとても有効です。
例えば,
@平成12年の問56の日銀短観についての正しい記述を求めさせる問題の各肢の記述はすこぶる長いのですが,それを発表する主体が記載されているのは肢1だけであることを見抜いたら,本問は30秒もあれば正解に達することができますし,
A論理問題を好まれる石川先生の出題による平成12〜16年の問3は,この問題全体を縦に眺めることにより,一見して異質そうな肢を発見することができ,
B平成16年の問16(4)は,実に不自然なしまりのない問題文であり,これが正解肢になりそうだとの当たりをつけることができますし,
C平成17年の問12は(3)だけが理由の付されていない問題文であり,これが正解肢になりそうだとの当たりをつけることができます。
2 問題本文をよく読むこと
その次に大切なことは,余りにも当然なことですが,問題本文をよく読むことです。
選択すべきものは妥当なものなのか,妥当でないものなのかなどを,正確に把握されることはもちろんのこととして,例えば,平成12年の問48,平成15年の問4,平成16年の問13,14,36,平成17年の問3のように,問題本文に懇切丁寧なヒントが付与されていたり,また例えば,平成16年の問21,26のように何らかの条件が設定されている場合もありますので,正確に読み取ることが大切です。
3 与えられた土俵の中で考えること
最後に大切なことは,択一の問題は与えられた土俵の中で考えることです。
しばしば独自の条件を追加して,自分の土俵を設定して解答される人がいますが,そんなことをすると,問題は今日の天候を聞いているのに,明後日の天候を予想することなってしまい,正解に達することはできません。
本論に入る前に,簡単な論理学の復習をします。次の命題の真偽を判断してください。
@日本人はケチである。
Aある日本人はケチである。
@は×,Aは○となります。@の×は何となくではダメです。@とAの違いは,Aには「ある」という限定の文言がついているのに,@にはそれがついていないことです。
@を全称命題,Aを特称命題といいます。
全称命題は一般的・普遍的に成立しなければ偽です。すなわち,例外が1つでもあれば,×です。もし真偽(正誤)の判断に迷ったら,全称の飾りことば,例えば,「すべて,つねに,絶対に,必ず」などを付加して判断すればよいのです。「すべの日本人はケチである。」と断定することはできないから,@は×なのです。
これに対し,特称命題は緩やかであり,1つでも該当するものがあれば,○です。
1 全称命題によるヒッカケの例
次の例はいずれも全称の問題文であり,正誤判断に迷ったら「つねに」を付加して考えるとよいです。
×株券発行前の株式の譲渡は無効である(H14-34)。←当事者間では有効
×債務者のために弁済を行った者は,債権者及び債務者の承諾を得なければ,債権者に代位することができない(H11-30)。←法定代位は承諾不要,任意代位は債権者の承諾
×債権者取消権は,取消しの対象となる法律行為があったときから2年間行使しないときは,時効により消滅する(H11-29)。←消滅時効や除斥期間の起算点は,一般にもう少し細かな要件が規定されているはず。
2 特称命題によるヒッカケの例
○裁判官は,原則として,公の弾劾によらなければ罷免されない(H13-6)。
** コメント **
裁判官の罷免事由としての弾劾裁判は,必ずしも原則ということはできないとして,本肢(5)を×とする人が多いのですが,本問は「憲法が定める身分保障に関する次の記述のうち誤っているものはどれか。」というものであり,出題者(石川先生)は,憲法の規定からも明らかに誤りである肢(3)を本問の正解として作問されていることに留意される必要があります。
3 主体(主題),客体,行為
問題文はヒントの固まりです。一字一句読み落とさないようにしなければなりませんが,とくに5W1H(いつ,だれが,どこで,なにを,なぜ,どうするか),そのうち,主体(主題),客体,行為だけは絶対に読み落としてはなりません。以下,いくつかを例示します。
(1) 主体(主題)によるヒッカケ
×補助機関とは,行政主体の手足として実力を行使する機関であり,警察官,収税官などがこれにあたる(H18-5)。←「執行機関」のヒッカケ
×取材の自由は,表現の自由を規定した憲法第21条の保護のもとにある(H16-3/1)。←「報道の自由」なら○
×報道の自由は,憲法第21条の精神に照らし,十分尊重に値する(H16-3/2)。←「取材の自由」なら○
×審査請求は,「処分庁に上級行政庁がないとき」にすることができる(H15-15)。←「異議申立て」なら○
×地縁による団体は,都道府県知事の認可によって法人格を取得する(H13-20)。
×天皇は,国会の承認を得て条約を締結する(H11-21)。
×株主総会は,代表取締役がその招集を決定し,取締役会が招集の手続を行う(H11-45)。←前後の主体が逆!
(2) 客体によるヒッカケ
×共同相続人の一人が遺留分を放棄した場合には,他の共同相続人の遺留分は増加する(H11-32)。←遺留分と相続分とを混同しないこと。
(3) 行為によるヒッカケ
×債権者取消権は,裁判上行使し得るだけでなく,裁判外でも行使しう得る(H11-29)。←債権者代位権と債権者取消権とを混同しないこと。
×行政機関の長は,開示請求に係る行政文書に不開示情報が含まれている場合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,当該文書を開示しなければならない(H16-8)。
×行政庁は,申請により求められた許認可等に対する処分をする場合には,あらかじめ審査基準を定め,これを公にしておくよう努めなければならない(H16-2)。
4 長文の事例
一読してわからない事例は,図示した上で,何が問題になっているのかを確定することが先決です。
○Aは,Bの強迫によりB所有の不動産上の抵当権を放棄して登記を抹消し,次いでBは,第三者Cのために当該不動産上に新たに抵当権を設定し,その後Aは強迫を理由として抵当権の放棄を取り消した。この場合,Aは,抵当権の登記を回復する前でもCに抵当権を対抗できる(H11-28)。←CはAの取消前の第三者
5 複文等
行政書士試験にもっとも多い問題文です。このような接続助詞でつないだ問題文は,十把一絡に判断することなく,読点(,)から読点(,)までの記述の正誤を逐次判断し,全部の記述が○であったときに,この問題文は全体として○,逆に一つでも×があれば,この問題文は全体として×と判断します。以下,その具体例を示します。
(1)並列によるヒッカケ
ここでは,受験生が混同しやすい余計な記述が加えられることが多いです。
×最高裁判所は,憲法その他法令の解釈適用に関して,意見が前に最高裁判所のした裁判又は大審院のした判例と異なるときは,大法廷で裁判を行わなければならない(H17-1)。
×(行政不服審査法によれば)処分の全部または一部の取り消しの申立てのほか,処分の不存在確認の申立て,不作為についての申立てを行うことができる(H16-15)。
×詐欺および強迫による意思表示は,心裡留保,虚偽表示および錯誤と同様に,表示に対応する内心的効果意思の欠缺する意思表示である(H14−27)。
×認可の対象となる行為は,法律行為に限られず,事実行為もこれに含まれる(H11-33)。
(2)逆転によるヒッカケ
×不服申立ては,行政庁の処分に対しては認められているが,行政庁の不作為に対しては認められていない(H15-15)。
×不服申立ての審理は書面によるのが原則で,不服申立人に口頭意見陳述の機会を与えるのは,不服申立てを審査する行政庁が必要と認めた場合である(H15-16)。
×地方公共団体の長が提出した予算案に対し,議会は,削減または否決することはできるが,増額の修正を議決することはできない(H14−17)。
×非嫡出子出生の届出は母のみがすることができるが,嫡出子出生の届出は父のみがすることができる(H14−31)。
×同時履行の抗弁権は,双務契約上の債務の履行については行使することができるが,契約の解除による原状回復義務の履行債務については行使することができない(H11-31)。
(3)原則と例外の反転によるヒッカケ
×弁明は,行政庁が口頭ですることを認めたときを除き,書面の提出によってするのが原則であるが,聴聞は,口頭かつ公開の審理によるのが原則である(H18-11)。←何気なく聴聞を公開が原則としている
(4)おとぼけによるヒッカケ
×行政事件訴訟法に教示の規定が設けられたことを契機として,行政不服審査法においても教示の制度が創設されることとなった(H18-19)。←油断するとミスしてしまう。ご用心あれ!
(5)正しい理由前置によるヒッカケ
おそらく最もミスしやすいのがこのタイプの問題です。前段の理由付けに引きづり込まれないように注意する必要があります。
×上告審の裁判は,法律上の問題を審理する法律審であることから,上告審の裁判において,事実認定が問題となることはない(H17-1)。
×地方自治法の規定する議会の議決事項は限定列挙と解されているため,地方自治体が条例によって,自治事務につき議会の議決事項を追加することは認められていない(H17-17)。
×行政代執行法の定める手続的要件は,憲法上の要請と解されているので,個別の法律で簡易代執行を認めることはできない(H17-12)。←本問は正解肢3を除き,すべてこの手のヒッカケ問題
×特約がないかぎり,請負人は自ら仕事を完成する義務を負うから,下請負人に仕事を委託することはできない(H14−29)。
×株式の譲渡は投下資本の回収を図る手段であるから,株式の自由譲渡性が認められなければならないため,定款で取締役会の承認を要する旨を定めることはできない(H14−34)。
×認可を受けた地縁による団体は,公益法人とみなされ,そのすべての権利義務を有することができる(H13-20)。
×予算の提出権は内閣にのみ属するので,国会議員は予算を伴う法律案を提出することはできない(H11-26)。
(6)もっともらしい理由前置によるヒッカケ
×公物の占用許可を取り消された者は,当然に占有物件を除却すべき義務を負うので,当該義務の不履行がある場合には,代執行によって当該占用物件を除去することができる(H11-35)。
6 運用の実態に照らして柔軟に処理すべき問題
×義務不履行者に対し義務履行を確保するためには,行政機関は裁判所に出訴して司法的執行に委ねなければならない(H14-9)。←税金の徴収を想起されたい。仮にそうだとすれば裁判所もパンクしてしまう。
×外国から輸入しようとした出版物にわいせつな表現が含まれている場合,これを税関が輸入禁制品として没収するのは違憲である(H14−7)。←現に税関検査は行われている。
○憲法は義務教育を無償とする旨を規定しているが,これは,授業料を徴収しないことを意味し,教科書,学用品その他の教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものではない(H11-22)。←現に父兄は学用品等を子に買い与えている。
×教科書検定は,教育内容が正確かつ中立・公正で,地域,学校のいかんにかかわらず全国的に一定の水準を確保するためのものであったとしても,これを行うことは許されない(H11-22)。←現に教科書検定は行われている。
個数問題は,残念ながら丹念に各肢の正誤(妥当性)をチェックしていくほかなく,特に平成15年度の試験に多用された知識を問う個数問題は知っていなければ正解に達することができませんので,受験生にとってはきつい問題です。
もっとも,平成16年度の問6,10のように,論理を問う個数問題は,知らなくてもその場で柔軟に考えることにより,あるいは正解に達することができます。
ですから本試験の現場では,問われているものが知識なのか論理なのかを見極めて,前者であればサッサと見切りをつけて先に進み,後者であれば少し考えてみるようにしてください。その際,判断に迷うときは,素直に受験生通説(多くの受験生が出すであろう結論)に従うことです。
組合せ問題は,肢の組合せを利用すれば,全肢の正誤等がわからなくても,正解に達することができます。例えば,次のとおりです。
平成16年問1
アは罪刑法定主義の下では当然○だから,アを含む1と4は消去でき,オが○とわかれば,3と4を消去でき,残った2を正解肢とすることができます。
平成16年問17
アは○のはずだから,アを含む1と4は消去でき,イが○とわかれば,2と3を消去でき,残った5を正解肢とすることができます。
平成18年問39
本問は司法書士試験なら各別,行政書士試験にはいささか細きに失する問題ですが,アとイが×だと気付けば,それだけで5を正解肢とすることができます。
穴埋め問題の肢は,適切な語句の組合せとなっていますから,上記組合せ問題と同じ手法で正解に達することができます。例えば,次のとおりです。
平成16年問2
まず,全体を縦に眺めます。アの許可主義には民法上の公益法人である財団法人が入りそうですから,正解は2か3になりそうだと当たりつけ,エの準則主義には会社が入りそうですから,3を消去して,残った2を正解肢とすることができます。
平成16年問9
まず,肢全体を縦に眺め,アに入るのは公定力か不可争力,イに入るのはバラバラ(拘束力,排他的管轄,先占),ウに入るのは違法性か瑕疵,ウに入るのはバラバラ(無名抗告訴訟,客観訴訟,争点訴訟)であることを確認します。
そして問題本文を精読し,この問題文の冒頭部分は,行政行為のある効力を究極において取り消すことができるのは,取消訴訟だけ(「〜を争うのは取消訴訟『のみ』」)といっていることを読み取ります。
すると,アには公定力が入ることがわかります(∵不可争力は,つまるところ出訴期間を過ぎたら取消訴訟を提起することができないという形式的確定力にすぎない)。これにより,正解候補を1と4に絞ることができます。
そこで,イには拘束力か排他的管轄が入ることになりますが,取消「訴訟」の拘束力は不自然ですから(取消「判決」の拘束力ならわかる!),イには排他的管轄が入ることになり,4を正解肢とすることができます。
平成18年問1
ここでも,肢全体を縦に眺め,Dに入るのは,ヒッカケのPFIやPSEなどに惑わされることなく,時節柄ADRに決まっているとして,正解肢を2または3に絞ることができます。
肢2ではAに「示談」が入り,「裁判上の示談」となりますが,こんなの聞いたことがないので,肢3を正解とします(あるいは,調停前置主義を思い出してBに「調停」,第三者の判断に服するからCに「仲裁」を入れることも,もとよりケッコー)。
*択一式の穴埋め問題(例:H13-9,H14-2,H16-9,H17-8,15,H18-1,25など)は,かつては記述式,平成18年以降は多肢選択式の問題練習に好適です。
憲法の出題を担当されている石川先生は,純然たる知識問題よりも現場処理型の論理問題を好まれるようで,毎年1〜2題出題されていますが,そのきわめつけは,平成16年度の問6でした(従前は一肢選択型でしたが,昨年度は意地悪にも個数問題にされました)。
私の経験によれば,この種の問題が出題されると,例えば,本問では「これまで存在した各種の憲法典」に目を通さなければならないと考える人が少なくないのですが,このような考え方は受験勉強としては誤っています。たしかに知識があれば考えることなく知識だけで処理できますので解答は楽なのですが,あらゆる知識を蓄えることは困難ですし,仮にそれが可能であったとしても,少しばかり視点を変えた問題には対処できないからです。やはり普段から自分なりに考える学習をされ,本試験の現場では既知の知識と国語や論理力を総動員して対処できるような体勢を普段の問題練習によって確立されている必要があります。
さて,本問ですが,肢全体を縦に眺めますと,アは国教の樹立の禁止,イは前段で特権の禁止,後段で宗教団体の行政の執行の許容,エは非宗教的国家の宣言,ウは宗教団体等への公金支出の禁止,オは国教の宣言となっています。
とすれば,厳格な政教分離を規定する憲法20条と明らかに調和しないのはオであり,明らかに調和するのはア,ウ,エであることがわかります。
問題はイです。前段は調和しますが,後段の「かつ,行政を執行する」中の「行政」の意味がどうもはっきりしないからです。すなわち,前段を承けて宗教団体内部での政治(自治)を意味するのであれば調和しますが,そうでなければ調和しません。
そこで,今一度憲法20条の規定を思い出してみますと,本件に関連しそうな規定として,「いかなる宗教団体も...政治上の権力を行使してはならない。」という規定があります(20条1項後段)。とすれば,出題者は,「行政を執行する」=「政治上の権力を行使する」として,作問されたようにも思えます(実際,センター発表の模範解答ではこの意味で作問されていました)。
本試験の現場では,ここまで考えた以上,その先をあれこれ悩むと時間を浪費するだけですから,最後の選択は意固地にならないで,エイヤと受験生通説に従いましょう(おそらく受験生の多数派は後者(=調和しない)を採って,正解肢を3にしたものと思われます。)。
最後に大切なことがあります。
それは,特に知識問題についてはできるだけ時間をかけないで短時間で処理できるようになっていなければ,本試験では時間不足になってしまう,ということです。
時間不足にならないためには,普段の学習や問題練習において,基本的な知識問題については,自分でモノサシを作っておく,ことです。
ここでは,典型的な条文へのあてはめ問題である平成17年問26を素材として,その一端を紹介します。
平成17年問26
次のア〜オのうち,Aの所有するそれぞれの物について,Bが即時取得(民法192条)によりその所有権を取得できる可能性がある場合は,いくつあるか。
ア Aがその所有する建物をCに賃貸していたところ,Cがその建物を自己の所有する建物としてBに売却した場合 →×(客体は不動産)
イ Aの所有する山林に生育する立木について,Bがその山林および立木を自己の所有するものであると誤信して,その立木を伐採した場合→ ×(取引にあらず)
ウ 成年被後見人Aは,その所有するパソコンをBに売却したが,Bは,Aが成年被後見人である事実について善意・無過失であった場合 →×(前主は制限行為能力者)
エ Aの所有する自転車をCが借りた後に駅前駐輪場に停めていたところ,Bがその自転車を自己の自転車と誤信して,その自転車の使用を継続した場合 →×(取引にあらず)
オ Aの所有する宝石をCが盗み出し,CがこれをBに売却したが,Bは,その宝石が盗品である事実について善意・無過失であった場合 →○(「可能性」とあるから,例外規定(193条)を考慮するの要なし)
モノサシ
本問は,例えば,次のようなモノサシが用意されていれば,1分もあれば正解に達すことのできる問題です。
即時取得
意 義 動産取引の動的完全を確保する制度
要 件 @客体は登録制のない動産であること
A取引による占有取得であること
B前主は処分権のない者であること
C前主は制限行為能力者,無権代理人,錯誤者でないこと
D取得者は平穏・公然・善意・無過失であること
*判例:占有改定はダメと
効 果 所有権または質権の原始取得
以上,あれこれ択一式の解答手法を述べてきましたが,最後に究極の択一式の解答手法を紹介します。それは数人で択一ゼミを作ることです。古くから択一ゼミは過去問を中心として行われてきましたが,そのような受動的なものではなく,各ゼミ員が毎週1題〜2題の新作の
5肢択一の問題(1肢だけの問題はダメ!)を作問し,これを持ち寄って,まず問題を解き,その後で各自の出題の意図や問題文の妥当性などを議論し合うというものです
*。
このように5肢択一の問題を作問し,ゼミの仲間に解いて貰い,出題意図を仲間に説明し,仲間からの批判を受けることによって,本試験での事務処理能力を高めることができます(例えば,正解肢を肢3とするときは,肢1と2に,もっともらしい記述をおき,また正解肢を1とするときは,肢3〜5にもっともらしい記述をおくと,正答率はケッコー下がりますよ)。
*社会人を対象とした予備校では,講義中に順に受講生に質問したりすることを厳禁するところが多いのですが,大学受験をメインとする予備校の資格試験講座では方法などは講師に一任してくれますので,毎週1回くじ引きで2〜3人の受講生に作問の宿題を出し,次週その問題を受講生に解いてもらった後,出題者に解説してもらうという30分ほどの補講をやっていました。効果はてきめんで,私の担当するクラスの本試験の合格率は,毎年他の講師のクラスのそれよりもはるかに高く,おかげで時給もトップにしてもらいましたよ(Tカレッジ時代)。
本稿は,平成15年度の本試験直前期に公開したところ,すこぶる好評だったので,16,17,18年度の本試験の出題を踏まえて若干加筆したものです(ただし,平成18年試験から廃止された行政書士法等の問題は削除)。