W 択一法令の解答手法受験生からの質問
法令の択一の問題は,私にとっては「詐欺的な問いかけ」であり,それなりにテキストを学習したのに,正解に達することはできません。どうすればよいのでしょうか。
あなたのジレンマはよくわかります。 法の世界は,1+1=2というような必然的な世界ではなく,「〜の場合には〜できる(できない)」という当為の世界ですから,本来は論文式の問題で問うのが至当なのですが,論文式だと採点が大変なため,多くの資格試験では択一試験(○×試験)で行われています。 1 総 論1 択一問題の特性@択一の問題文の結論は,○か×であり,△の領域はありません。 2 判断のモノサシ 法令の択一問題は,問題文を,モノサシに当てはめて,その正誤を出します。
@問題文(事実)を,基礎理論により分析し,
Aそれにふさわしい条文に当てはめます。 Bピッタリ当てはまる条文がなければ判例にしたがいます。 Cこれら条文や判例を思い出すことができなければ,最後の手段としてエイヤと常識論で正誤を判断します。 社会経験の豊かな方は,@〜Bの手順を省略して,いきなり,Cの自己の豊富な経験則で判断される傾向がありますが(例:H12-27@は○とするが如し),これだけはゼッタイに避けて下さい。出題者はこのような傾向をとっくに見越した上で問題文を作っています。 3 択一式の出題形式行政書士試験の択一式は,次表のような形式で出題されています(分類は私の用語方であり,予備校などでは違った言い方がなされているかも知れません)。
択一式の出題で最も多いのは1で,次に多いのが2,3です。ですから,正誤問題をきちんと処理できることが基本となりますので,以下,主として正誤問題の解答手法をコメントします。 *センター試験となった初年度の平成12年度は一般教養を含めて現場処理型の問題が相当数出題されていたのですが(H12-3,6,48,54),どういうわけか漸次減少し,このところ知識を個数で問う個数問題(平成15年度は法令35題中13題,平成17年度は同6題)や組合せ問題(平成17年度は6題)が増加する傾向にありました。 2 解答以前1 問題全体を観察すること行政書士試験の択一式は五肢択一で行われますので,イキナリ各肢の個別チェックに入ることなく,その問題全体を縦に眺めてみることです(読むのではなく,文字どおり問題全体を縦に眺めて観察するのです。)。この観察の際に確認してもらいたいことは,各肢の文の長さ,文頭の主題,文末の述語(例えば,「できる」「できない」,「違憲である」「無効である」「有効である」など)です。 この観察は,仲間はずれの肢を短時間で見つけるのにとても有効です。例えば, 2 問題本文をよく読むことその次に大切なことは,余りにも当然なことですが,問題本文をよく読むことです。選択すべきものは妥当なものなのか,妥当でないものなのかなどを,正確に把握されることはもちろんのこととして,例えば,平成12年の問48,平成15年の問4,平成16年の問13,14,36,平成17年の問3のように,問題本文に懇切丁寧なヒントが付与されていたり,また例えば,平成16年の問21,26のように何らかの条件が設定されている場合もありますので,正確に読み取ることが大切です。 3 与えられた土俵の中で考えること最後に大切なことは,択一の問題は与えられた土俵の中で考えることです。しばしば独自の条件を追加して,ことさら自分の土俵を設定して解答される人がいますが,そんなことをすると,問題は今日の天候を聞いているのに,明後日の天候を予想することなってしまい,正解に達することはできません。 3 正誤問題の処理本論に入る前に,簡単な論理学の復習をします。次の命題の真偽を判断してください。
@日本人はケチである。
Aある日本人はケチである。 @は×,Aは○となります。@の×は何となくではダメです。@とAの違いは,Aには「ある」という限定の文言がついているのに,@にはそれがついていないことです。 1 全称命題によるヒッカケの例次の例はいずれも全称の問題文であり,正誤判断に迷ったら「つねに」を付加して考えるとよいです。
×株券発行前の株式の譲渡は無効である(H14-34)。←当事者間では有効 2 特称命題によるヒッカケの例○裁判官は,原則として,公の弾劾によらなければ罷免されない(H13-6)。 3 主体(主題),客体,行為問題文はヒントの固まりです。一字一句読み落とさないようにしなければなりませんが,とくに5W1H(いつ,だれが,どこで,なにを,なぜ,どうするか),そのうち,主体(主題),客体,行為だけは絶対に読み落としてはなりません。 (1) 主体(主題)によるヒッカケ
×審査請求は,「処分庁に上級行政庁がないとき」にすることができる(H15-15)。←「異議申立て」なら○ (2) 客体によるヒッカケ×共同相続人の一人が遺留分を放棄した場合には,他の共同相続人の遺留分は増加する(H11-32)。←遺留分と相続分とを混同しないこと。 (3) 行為によるヒッカケ
×債権者取消権は,裁判上行使し得るだけでなく,裁判外でも行使しう得る(H11-29)。←債権者代位権と債権者取消権とを混同しないこと。 4 長文の事例 一読してわからない事例は,図示した上で,何が問題になっているのかを確定することが先決です。 5 複文等行政書士試験にもっとも多い問題文です。このような接続助詞でつないだ問題文は,十把一絡に判断することなく,読点(,)から読点(,)までの記述の正誤を逐次判断し,全部の記述が○であったときに,この問題文は全体として○,逆に一つでも×があれば,この問題文は全体として×と判断します。以下,その具体例を示します。 (1)並列によるヒッカケここでは,受験生が混同しやすい余計な記述が加えられることが多い。 ×最高裁判所は,憲法その他法令の解釈適用に関して,意見が前に最高裁判所のした裁判又は大審院のした判例と異なるときは,大法廷で裁判を行わなければならない(H17-1)。 ×(行政不服審査法によれば)処分の全部または一部の取り消しの申立てのほか,処分の不存在確認の申立て,不作為についての申立てを行うことができる(H16-15)。 ×詐欺および強迫による意思表示は,心裡留保,虚偽表示および錯誤と同様に,表示に対応する内心的効果意思の欠缺する意思表示である(H14−27)。 ×認可の対象となる行為は,法律行為に限られず,事実行為もこれに含まれる(H11-33)。 (2)逆転によるヒッカケ
×不服申立ては,行政庁の処分に対しては認められているが,行政庁の不作為に対しては認められていない(H15-15) (3)原則と例外の反転によるヒッカケ×基本台帳は,原則として世帯と単位とする住民票を作成するが,市町村長が適当であると認めるときは,個人を単位とすることができる(H12-32)。 (4)正しい理由前置によるヒッカケおそらく最もミスしやすいのがこのタイプの問題です。前段の理由付けに引きづり込まれないように注意する必要があります。
×上告審の裁判は,法律上の問題を審理する法律審であることから,上告審の裁判において,事実認定が問題となることはない(H17-1)。 (5)もっともらしい理由前置によるヒッカケ×公物の占用許可を取り消された者は,当然に占有物件を除却すべき義務を負うので,当該義務の不履行がある場合には,代執行によって当該占用物件を除去することができる(H11-35)。 6 運用の実態に照らして柔軟に処理すべき問題
×義務不履行者に対し義務履行を確保するためには,行政機関は裁判所に出訴して司法的執行に委ねなければならない(H14-9)。←税金の徴収を想起されたい。仮にそうだとすれば裁判所もパンクしてしまう。 4 個数問題の処理 個数問題は,残念ながら丹念に各肢の正誤(妥当性)をチェックしていくほかなく,特に平成15年度の試験に多用された知識を問う個数問題は知っていなければ正解に達することができませんので,受験生にとってはきつい問題です。 5 組合せ問題の処理組合せ問題は,肢の組合せを利用すれば,全肢の正誤等がわからなくても,正解に達することができます。例えば,次のとおりです。
6 穴埋め問題の処理
穴埋め問題の肢は,適切な語句の組合せとなっていますから,上記組合せ問題と同じ手法で正解に達することができます。例えば,次のとおりです。
*択一式の穴埋め問題(例:H13-9,H14-2,H16-9,H17-8,15など)は,少なくとも昨年までの記述式の練習には好適でした。 7 現場処理型の論理問題の処理憲法の出題を担当されている石川先生は,純然たる知識問題よりも現場処理型の論理問題を好まれるようで,毎年1〜2題出題されていますが,そのきわめつけは,平成16年度の問6でした(従前は一肢選択型でしたが,昨年度は意地悪にも個数問題にされました)。 私の経験によれば,この種の問題が出題されると,例えば,本問では「これまで存在した各種の憲法典」に目を通さなければならないと考える人が少なくないのですが,このような考え方は受験勉強としては誤っています。たしかに知識があれば考えることなく知識だけで処理できますので解答は楽なのですが,あらゆる知識を蓄えることは困難ですし,仮にそれが可能であったとしても,少しばかり視点を変えた問題には対処できないからです。やはり普段から自分なりに考える学習をされ,本試験の現場では既知の知識と国語や論理力を総動員して対処できるような体勢を普段の問題練習によって確立されている必要があります。 さて,本問ですが,肢全体を縦に眺めますと,アは国教の樹立の禁止,イは前段で特権の禁止,後段で宗教団体の行政の執行の許容,エは非宗教的国家の宣言,ウは宗教団体等への公金支出の禁止,オは国教の宣言となっています。 とすれば,厳格な政教分離を規定する憲法20条と明らかに調和しないのはオであり,明らかに調和するのはア,ウ,エであることがわかります。 そこで,今一度憲法20条の規定を思い出してみますと,本件に関連しそうな規定として,「いかなる宗教団体も...政治上の権力を行使してはならない。」という規定があります(20条1項後段)。とすれば,出題者は,「行政を執行する」=「政治上の権力を行使する」として,作問されたようにも思えます(実際,センター発表の模範解答ではこの意味で作問されていました)。 本試験の現場では,ここまで考えた以上,これから先をあれこれ悩むと時間を浪費するだけですから,最後の選択は意固地にならないで,エイヤと受験生通説に従いましょう(おそらく受験生の多数派は後者(=調和しない)を採って,正解肢を3にしたものと思われます。)。 8 まとめ(解答時間の短縮のために) 最後に大切なことがあります。 平成17年問26次のア〜オのうち,Aの所有するそれぞれの物について,Bが即時取得(民法192条)によりその所有権を取得できる可能性がある場合は,いくつあるか。 ア Aがその所有する建物をCに賃貸していたところ,Cがその建物を自己の所有する建物としてBに売却した場合 →×(客体は不動産) イ Aの所有する山林に生育する立木について,Bがその山林および立木を自己の所有するものであると誤信して,その立木を伐採した場合→ ×(取引にあらず) ウ 成年被後見人Aは,その所有するパソコンをBに売却したが,Bは,Aが成年被後見人である事実について善意・無過失であった場合 →×(前主は制限行為能力者) エ Aの所有する自転車をCが借りた後に駅前駐輪場に停めていたところ,Bがその自転車を自己の自転車と誤信して,その自転車の使用を継続した場合 →×(取引にあらず) オ Aの所有する宝石をCが盗み出し,CがこれをBに売却したが,Bは,その宝石が盗品である事実について善意・無過失であった場合 →○(「可能性」とあるから,例外規定(193条)を考慮するの要なし) モノサシ本問は,例えば,次のようなモノサシが用意されていれば,1分もあれば正解に達すことのできる問題です。即時取得 意 義 動産取引の動的完全を確保する制度 要 件 @客体は登録制のない動産であること A取引による占有取得であること B前主は処分権のない者であること C前主は制限行為能力者,無権代理人,錯誤者でないこと D取得者は平穏・公然・善意・無過失であること *判例:占有改定はダメと 効 果 所有権または質権の原始取得 本稿は,平成15年度の本試験直前期に公開したところ,すこぶる好評だったので,16年度,17年度の本試験の出題を踏まえて若干加筆したものです(ただし,今年から廃止される行政書士法等の問題は削除)。 Copyright (C)2004-2006 All rights reserved. by HMQ |