V 合格目指して −学習法の一例−

 行政書士試験を目指される方に,少しばかりの先輩として,参考までに思うところを述べます。納得いただける部分を取り入れてください。

T 全 般

★ 予備校等の利用は不可欠?

 今年から試験が高度になることをビジネスチャンスとして,「もはや独学では無理」などと宣伝している予備校もあるようですが,決してそのようなことはありません。

 行政書士試験が一気にミニ司法試験となることはとうてい考えられませんし,またそのようにいう予備校自体,少なくとも今年の試験に限っては,今年の試験がどのようなものになるのかを模索しながら講座を始めているものだからです。

 そのようなわけで,もはや独学では無理ということはありませんが,お金はかかっても,予備校等を利用された方が効率のよい受験勉強ができることだけは確かです。

 でも,種々の都合で予備校等を利用できない人も多数おられますので,ここでは,このような人,とりわけこれから初めて行政書士試験の法令等に取り組もうとする人を念頭において,話しを進めていくことにします。


★ 学習のスケジュール

 学習計画は,本試験の施行日から逆算して立てます。
 本試験は今年から11月の第2日曜日に施行されることになっていますので,今年は11月12日に施行されることになります。

 個人差はあるでしょうが,今年の試験に合格するには,10月は直前対策用に残し,できれば,8月中に全科目の学習と過去問のチェックを終え,9月に入ったら,予備校等の答案練習会などに参加できるような計画を立ててください。

 その際注意していただきたいことは,法令の民法は分量が多く,かつ理論的であること,また一般知識等の文章理解は一夜漬けがきかないことです。これらの科目はなるべく早めに開始してください。
 他方,政治・経済・社会や情報通信・個人情報保護等は一夜漬けが利きますので,後回しにしてもよいでしょう。でも9月末までは一通り目を通しておいてください。


★ 受験勉強は過去問に始まって過去問に終わる

 受験は戦いです。効率のよい受験勉強をするには,まず,敵=過去の本試験問題を徹底的にチェックする必要があります。

 もちろん,過去問とまったく同一の問題は出題されることはありませんし,総務省の「業務分野が多岐にわたり特定されないという行政書士の業務の特性や,隣接法律専門職種としての位置付け等に鑑み,より一層法的思考力等を問うこととすべく,その判定になじみやすい基本法を中心に出題法令の限定を行」うという方針(総務省回答12参照)の下で作問される今年の問題は,過去問とは傾向の違った問題になるでしょう。

 けれども,そこで扱われるテーマや出題の形式等は,それが択一式で出題される以上,その過半の問題に類似したものとなるはずですし,また試験委員の先生も過半の方が留任されるでしょうから,過去問の研究は今年の試験の受験準備においてもなお重要であることを強調したいと思います。過去問のチェックがおろそかであれば,いわゆる的外れの勉強ゴッコになりがちであり,なかなか合格レベルに達することはできません。まさに古来,受験勉強は過去問に始まって過去問に終わるといわれるゆえんです。

 市販されている過去問題集は,項目別に編纂したものと年度別に編纂したものがありますが,前者は普段の学習,後者は受験直前期の仕上げのために使用します。
 法令等については行政書士法・税法などが今年から出題されないことになりますが,一般知識等で関連知識として出題される可能性もありますので,一通り目を通しておいてください。他方,一般教養の廃止科目(国語の漢字や文法など)についてはその必要はありません。

 最後に,普段の学習における市販の項目別の過去問題集の利用法ですが,法令等については,多くの人がこれから学習される科目ですし,当初から過去問というわけにはいきませんので,一通りテキストを学習された後にということになります。一般知識等の政治・経済・社会については,テキストの学習(復習?)の前に,過去問題集に当たり,自分には「何が足り,何が足りないか」を徹底的にチェックし,足りないものを修復することになります。



U 法令等の学習

 これから法令等の科目を学習される方にとっては,まずテキストの選択,次に選択されたテキストをどのような順序で学習していくか,ということが問題になりますので,このあたりについて思うところを述べます。

1 テキストの選択

 本屋さんには,「○○!行政書士試験」というような派手なタイトルを付した予備校やハウツー物の出版社の本のほか,「○○法入門」「○○法T」などの学者の手による法律書専門の出版社の本が並んでいますので,選択に迷うところです。

 予備校の本は講師等が過去の出題傾向をお手本として執筆したものですから,一般にメリハリがきいていて,とてもわかりやすいのですが,ときに誤った解説がなされていたり,本試験では説明されていなかった事柄が出ることもあります(特に今年の試験にはそのような事態が発生するでしょう)。これに対し,学者の手による本は,その正反対です。

 そこで、選択の目安としては,予備校本をベースとして軽く済ませるにしても,本試験で出題の多い科目(憲法,行政法,民法等)については,できれば学者の手による本をテキスト,少なくとも参考書として利用するのがよいででしょう。


★おすすめのテキスト

 テキストは,本屋さんでいろいろなものをじっくり立ち読みされ,ご自分で至当とされるものを選択されるのが一番なのですが,これから初めて行政書士試験の法令等に取り組もうとする人にとっては,何らかの手掛かりがないと大変だと思われますので,選択の参考として至当と思われる本を紹介します。

 *もちろん,下記に紹介する本以外にも優れた本はたくさんありますので,あくまでも参考としてお願いします。
なお,予備校の本にも良くで出来たものがありますが,特定の予備校本を紹介することは,かつて同業にいた者としては控えるべきものと思いますので,ここでは予備校の本は列挙しないことにします。

(1) 全 般
  必読! 我妻栄著 「民法案内T 私法の道しるべ」 勁草書房
 わが国の民法学会の巨頭我妻先生が法学徒のために「〜したまえ」といった講義調の名調子で,法律学の勉強の仕方,六法の使い方,ご自分の試験勉強法のほか,裁判と調停など基礎法学一般について,語りかけてくださる不朽の名著です。
 おそらく中堅以上の法律家の方は,誰でも読んでおられるはずです。版元が倒産したこともあって,長く入手困難となっていましたが,ようやく昨年7月復刊しました。このシリーズは10巻からなっていますが,この第1巻だけは,ぜひ読んでください(245頁)。予備校等を利用されている方にもこの一冊だけは一読をおすすめします。

(2) 基礎法学
  @末川博編 「法学入門」 有斐閣双書
  A丹羽重博編 「やさしい法学」 法学書院
  B野村豊弘編 「法学キーワード」 有斐閣双書

 大先生の著作がたくさんありますが,いずれも難解な本ばかりですので,ここでは入りやすく,かつ比較的新しい上記3冊を紹介します。
 @は民法の大家末川先生の編著による古くからある入門書で,講話調で全法体系の概要が説かれています(全18講:246頁)。各講のはじめには著名なイエーリングの「権利のための闘争」などの一節が紹介されており,興味深く入っていける本です。
 Aは,いささか大部ですが(345頁),類書にはない図表が多く用いられ,第1編法学総論では法令用語の説明もなされているほか,第2編法学各論では憲法,行政法,刑法,国際法などの概要が説明されています。
 Bは,最も新しい本(2003年9月版)で,「法の新しい展開」として,インターネットと表現の自由,デジタル化・ネットワーク化と著作権,電子商取引なども取り上げられています(242頁)。
 基礎法学のテキストとして手元の3冊を紹介しましたが,もちろんいずれか1冊で足りますし,他にも優れた本がたくさんありますので,これらを書店でじっくりチェックされ,あなたが至当とされるものを選択してください。


(3) 憲 法
  芦部信喜著 「憲法」 岩波書店
 憲法訴訟の第一人者であられる芦部先生が初学者のために書き下ろされた教科書です。
 実にわかりやすく書かれていますし,また憲法は高校の「政経」や「現社」で学習されたところですから(もっとも芦部先生はこれから学習する憲法は「高校の憲法とは違うぞ」と本書でアドバイスされている),何かと中途半端な予備校本よりも,当初から本書をテキストとされることをおすすめします(398頁)。

(4) 行政法
  @長野秀幸・川ア政司著 「行政法がわかった」 法学書院
  A原田尚彦著 「行政法綱要」 学陽書房
  B妹尾克敏著 「地方自治法の解説」 一橋出版

 @をテキスト,AとBを参考書とされるのがよいでしょう。
 @は,とっつきにくい行政法全般について,一問一答方式で,わかりやすくしかも最新の事柄(第5版は昨年10月発行)について説明されていますので,テキストとしておすすめします(376頁)。
 Aは,わかりやすいと定評のある行政法の概説書です(438頁)。余力のある人は,むしろ@を省略してこちらをテキストにされてもよいでしょう。
 Bは,上記@・Aが出題の多い地方自治法については,いささか物足りないところから紹介する重要条文の逐条解説書です(240頁)。
 なお,行政法については,他に公務員試験のためのすぐれた受験書がたくさん出ていますので,これらの中からテキストを選択されるのもよいでしょう。

(5) 民 法
  @ ? 「宅建試験用の『権利関係』の受験書」 予備校本
  A我妻栄著 「民法1・2・3」 勁草書房

 おそらく法令等で一番苦労されるのがこの科目だと思われます。間口が広く奥行きの深い科目だからです。
 いろいろ思案した末,@宅建試験用の「権利関係」の本から入られることをおすすめすることにします。民法の全体像をわりと手軽に把握することができるからです。宅建試験は行政書士試験よりも受験生が5〜6倍も多く,それだけ需要もたくさんあることもあって,多種多様なものが数多く出回っています。お近くの書店の宅建試験コーナーで立ち読み読みされ,あなたにフィットするものを選んでください。
 Aは,ダットサン民法として古くから法学徒に親しまれてきた我妻栄先生による古典的名著です。民法全体を網羅した本としては一番分量の少ない概説書なのですが,それでも,第1巻(総則・物権法)は590頁,第2巻(債権法)は527頁,第3巻(親族法・相続法)は437頁ですから,率直にいって行政書士試験のテキストとしてはキツイのですが,最近の若手の学者の本よりもはるかにスッキリしていて,とても読みやすく,またできれば予備校本ではなく,きちんとした概説書で学習していただきたいので,あえてこの本をおすすめします。
 この本も版元の倒産により,長く入手困難となっていましたが,ようやく昨年4月復刊しました。先生は今はありませんが,内弟子であられる川井・遠藤博士(いずれも高名な民法の大先生です)が補訂されていますので,最近の法改正はもとより,判例も網羅されています。
 あえてAをおすすめしましたが,Aでなければ試験に対処できないというものではありませんので,予備校等から出ている本をテキストとされることはもとよりケッコーです。この点,くれぐれもよろしく。


(6) 商 法
  @ ? 「行書試験用の『商法』の受験書」 予備校本
  A沢野芳夫,遠藤喜佳著 「商法の解説−総則・商行為−」 一橋出版
  B河内隆史著 「商法の解説−会社法−」 一橋出版

 前記出題傾向の予想の部では新商法・新会社法で学習されても構わない旨を述べましたが,ここでは,一人で学習する人を念頭においていますので,あえて現行商法(旧法)の簡便なテキストを紹介します。新会社法はより複雑になっているからです。
 ここでは,@またはA+Bをテキストにすることになりますが,Aは96頁,Bは176頁の薄い本ですから,手短に現行商法全般について目を通すことができます。

(7) 六法全書
 行政書士試験では六法全書(以下「六法」といいます)は必需品とまではいえませんが,法令等は,六法を傍において学習していただきたいところです(その理由・利用法については後述)。

 書店には時節柄,種々の六法が並んでいますが,「小六法」(有斐閣),「模範六法」(三省堂)などの中型六法を1冊購入されるよりも,できれば,「ポケット六法」(有斐閣),「ディリー六法」・「新六法」(三省堂),「コンパクト六法」(岩波書店)などの学者によって編纂された小型六法と予備校の「○○六法」の2冊を購入されることをおすすめします。
 予備校の六法は,判例要旨とか過去問の紹介などがなされており,とても便利なのですが,参照条文の記載がなく,参照したい条文が「抄」ということで掲載されていなかったり,あちこちに誤植があったりするからです。

(8) 判例解説
 憲法,国家賠償法,民法などでは,しばしば「最高裁の判例の趣旨に照らして」という問題が出題されるところから,テキストなどに紹介されていない判例までも知っていなければそのような問題は解けないと解される人が多いのですが,それは杞憂にすぎません。
 テキストの説明をきちんと理解されていれば,たとえ問題に取り上げられた判例を直接知らなかったとしても,その結論はある程度予測できるものだからです(これを憲法センスとか,リーガルマインドといいます)。というのは,最高裁は場当たり的な裁判をするのではなく,あくまでも実定法の規定と蓄積された判例理論に基づいて,具体的な事案を処理するものだからです。
 そうはいっても,受験生心理としては,判例をまとめた本がほしいものです。そのときは,さしあたり上記で紹介した予備校の「○○六法」を利用してください。それ足りるものと思いますが,しばしば「判例の本」についてのメールが届きますので,以下,参考までにそのような本を紹介しておきます。


★参考
(1) 判例要旨が数多く収録されている六法
 例えば,
  @『模範六法』三省堂
  A『判例六法』有斐閣

(2) 判例の解説書
 判例の解説書としては,例えば,
  B法セミBOOKS判例ハンドブックシリーズ(日本評論社)
   芦部編著『憲法』 など
  C公務員試験:はじめて学ぶ「行政法判例」(実務教育出版)
  D別冊ジュリスト判例百選シリーズ(有斐閣)
    憲法判例百選J・K
    民法判例百選J・K
    行政判例百選J・K など
  E別冊ジュリスト○○年度重要判例解説シリーズ(有斐閣)

*****
@Aは,各条文ごとに関連する判例の要旨を収録したものです。
Bは,事実,判例要旨,解説をコンパクトにまとめたもので,初学者には好適な判例の学
 習書で価格も手頃です。ただし,平成3年の判例までしか網羅されていません。
Cは公務員試験用のものですが,初学者の行政法の判例研究には好適な参考書です。
Dは,大学法学部の学生の必読本であり,然るべき学者が判例を分析していますので,判
 例の参考書としては最も信頼のおけるものですが,それだけに行政政書士試験の受験生
 が独力で取組むには,率直にいって荷が重すぎましょう。
Eは,上記Dの年度版で,平成16年度版まであります(毎年1年後の6月頃に発行)。

(9)過去問・予想問題集
 予備校等から工夫をこらしたものが種々出ていますので,書店でじっくり品定めをされ,至当と思われるものを選択してください。なお,公務員試験(国家U種・地方上級)の問題集も参考書として好適です。



2 テキストの学習順など

 テキストが決まると,そのテキストをどの順序で学習していくか,ということになりますが,合格のためには,前述しましたように,できれば8月末までに全科目に一通り目を通しておきたいので,分量の多い民法については,当初から取りかかる必要があり,また行政法は憲法を具体化した法体系なので,憲法→行政法の順に学習される必要があります。
 この2点を充足していれば,あとは至当とされる順序で学習されたらよいのですが,参考までに,その一例を示します。

1 準備学習
   最初の1週目   民法案内1の第1章+基礎法学のテキストの通読
      2週目   宅建民法の通読
2 本格学習
   最初の2か月   憲法 + 民法1 両科目を1日おきに併行学習
   次の2か月    行政法+ 民法2 両科目を1日おきに併行学習
   次の次の2か月  商法 + 民法3 両科目を1日おきに並行学習
3 横断学習
   1か月      上記全科目の総チェック+基礎法学のテキストの精読
4 総点検
   1か月      問題練習+総整理
5 直前対策
   本試験前日まで  問題練習+詰め込み作業


*若干のアドバイス

(1) 読書のペース
 学習を開始された当初は,おそらく1時間に5頁程度しか進まないでしょう。
 でも,次第にペースが上がってきますので,ご心配なく。

(2) 用語の問題
 行政書士試験の受験生,とりわけ熱心な方は,テキストや条文に出てくることばを,あたかも外国語のようにとても難しく考える人が多い傾向にありますが,わが国の法令とその解説書等は,私たちを名あて人として,ふつうの日本語で書かれています。ですから,イキナリ最初から特別の意味をもつことばとしてではなく,まずは日常生活で使うふつうの日本語として考えてください(法令用語辞典よりもまずは国語辞典!)。
 もちろん,法律のことばの中には,日常のことばとは違った意味づけがされているものもあります。でも,それはごく一部です。

 次に,テキストの定義を大切にしてください。すなわち,テキストに「○○とは,〜をいう。」と書いてある部分をしっかり押さえ,この記述の前後に書かれてある具体例に,この定義を当てはめてください。すると法律用語が定着していきます。



3 学習のはじめに

★ 丸暗記だけではダメ

 行政書士試験の法令等のレベルはそれほど高いものではありませんが,範囲が広いので,丸暗記だけでは対処できません。
 思うに,法律学は,1+1=2という必然の法則の妥当する自然科学とは異なり,「〜せよ」とか「〜するな」という当為の法則の妥当する領域です。ですから約束ごとの世界なのですが,この約束ごとは,バラバラに作られたものではなく,一定の原理・原則(制度趣旨)に基づいて作られています。例えば,民法はローマ法の流れをくむ2000年もの長い間に蓄積された合理的な人間の精神的活動の所産ですし,憲法も近代市民革の下での自由獲得の成果ですし,借地借家法は社会政策に基づくものです。
 このように,あらゆる法にはちゃんとした制度趣旨(条文の心といってもよいでしょう。)があります。法律の学習にはこの制度趣旨を理解することが大切です。制度趣旨を理解していれば,細かな約束ごとの内容(条文)を知らなくても,その結論をある程度予測できるものなのです(いかに有能な弁護士でも六法全書の全条文を知っているわけではありません)。
 なお,ここに理解するとは,さまざまな制度の意味内容とその相互関係を,テキストの説明文をそのまま丸暗記することなく,その前にこれを自分の言葉に置き換えて説明できるようになることです。これがなされていることが,今年からの「より一層法的思考力等を問うものとする」(総務省回答11)試験を突破するための大前提となります。

★ 細かな知識にこだわらない

 次に大切なことは,余り細かな知識にこだわらないということです。
 思うに,行政書士試験の受験生は,何でもあらかじめ知っていなければ,試験に対処できないされる傾向がありますが,これは誤まりです。なるほど,何が出題されても十分というほどの知識をあらかじめ用意していたら,考えなくても知識だけで簡単に処理できるので,それは結構なことです。けれども,そのようなことは実際には不可能であり,また仮にそれができたにしても,半年〜1年程度のいわゆるにわかに仕込みの詰め込み的学習では,バラバラのうろ覚えの知識になってしまいがちであり,かえって本試験でのミスを誘発してしまうのがオチです。
 古来いわれていますように,学習というものは,既知の基本的な知識をもって,未知の問題を解決できる能力を高めることです。受動的な立場に立って出題者の求めに対処するための準備=受験勉強は,その最たるものといえましょう。
 ところで,行政書士試験は5肢択一で行われていますが,出題者は,そのうち3〜4肢はだれでも学習したであろう基本的な事項,他の1〜2肢は大部分の受験生が学習していないような細かな知識,あるいはもっともらしく表現したデタラメの記述の肢にする傾向があります(いわゆる「ヒッカケ肢」)。このヒッカケ肢は,正確に理解した基礎知識と柔軟な思考力があれば,直ちに見抜くことができます。
 ただ,私の経験によれば,予備校に通っている人でもこの種の目新しい新顔のヒッカケ肢をみると,すぐにメロメロになってしまい,直前の講義で確認したばかりの基本的な事柄などにはお構いなく,このとんでもないヒッカケ肢にのってしまう人が少なくありません(一人で学習される方は,そのような傾向がより一層強いように思えますので,この点に留意願います。)。
 このように,受験を合格に導くものは,うろ覚えのバラバラの100の知識ではなく,確実に使いこなせる10の基礎知識と,これをもって未知の問題を解決するための柔軟な思考力です。出題者が知りたいのも,この点にあります。法職者の資質は,諸般の事情を柔軟に考慮して,具体的妥当性のある結論を導くところにあるからです。



4 具体的な学習法の一例

★ テキストは少なくとも3回転させる

 種々の法制度は単独で存在するものではなく,他の制度との関連のもとで存在しています(法秩序統一の要請)。どんなに優秀な人であったとしても,最初の1回の読書だけでこれを理解することはできません。少なくともテキストは3回転させてください。その一例を次に示します。

(1)準備段階(全体構造の把握)
 テキストを,最初から最後まで「通読」してください。この段階では,理解しようとする必要はまったくありませんので,目次を併用して,どこにどのような事柄が取り上げられているかを1〜2日問で把握するようにしてください。

(2)第1回目(本格的学習その1)
 ここでは,テキスト+項目別の過去問題集+六法全書を有機的に結合した学習をします。
 具体的には,テキストを精読し,テキストの指示する条文は面倒でも必ず六法にあたって,その条文の頭書に印をつけてください。この段階ではテキストの説明がわからないところがたくさん出てくると思います。そのときはあれこれ追及することなく,鉛筆でわからない箇所に印をつけて,どんどん先に進んでください。目標としては,1時間あたり10ページといったところでしょうか。  また,この段階ではサブノートを作成する必要はありません(この段階では実戦に耐えうるノートなどできないのに,きちんと清書することは時間の無駄です。)。
 必要と思われるなら,テキストに鉛筆(後で不必要な書き込みを消せるように)で書き込むか,あるいはメモ用紙にその時に思われたことなどをメモして,該当するページに挟んでおいてください。
 なお,いささか細かくなりますが,この段階でテキストにマーカーで色付けされることも禁物です。大事だと思われる箇所には鉛筆(後で不必要な箇所を消せるように)で下線を引いてください。マーカーによる色づけは,もう少し学習が進んだ段階で,試験直前期の詰め込みを想定して「ここだけはゼッタイに」という箇所に限定されるのがよいです。

(3)第2回目(本格的学習その2)
 基本的には,上記(2)の第1回目と同じですが,より丁寧に読み,関連事項については項目別の過去問にチャレンジします。

(4)第3回目(横断的学習)
 ここではページ順ではなく,現在のテキスト自体はもとより,他の科目のテキストの関連する事項を一体として,横断的に精読します(例えば,地方自治法の学習→憲法の地方自治,行政行為の学習→民法の法律行為といった具合)。これによりバラバラに学習した諸制度がつながってきます。その結果,上記(3)でわからなかった問題も「なるほどそういうことだったのか」と理解できるようになります。そして上記2回目で残した問題にじっくり取り組みます(わからなければ,今度はテキスト+条文で調べます。)。

 もしサブノートを必要と思われるのであれば,この段階で作成してください。サブノートのまとめ方は,人により異なるでしょうが,一般的には,意義,要件,効果,あてはめ(具体例〜判例),その他(過去の出題例など)の順に整理されるとよいでしょう。

★ 仕上げは条文で

 条文のある法令等科目の仕上げは条文(六法全書)で行います。
 テキストなどよりもはるかに簡潔にして正確そのものだからです(成文法主義をとるわが国の法律の教科書はすべて条文の解説書です。)。上記(2)〜(4)の読書の際,マークした条文こそ重要条文です。これを抽出しながら,じっくり読み,その意味内容と,なぜこの条文があるのだろうか(=制度趣旨)を考えてください。わからなければテキストに戻ります。この繰り返しこそ正統的な法律学の学習法です。



V 基礎知識等の学習

★ この科目を侮ってはいけない

 今年から,従前の一般教養は「行政書士の業務に関連する一般知識等(政治・経済・社会),情報通信・個人情報保護・文章理解)」と再構成され,出題数も60題中14題に減りました。
 このように,従前の国文法,歴史や理数科などがなくなりましたので,従前よりも楽になったとみることもできましょう。
 けれども,従前と同様にこの科目にも足切り点が設定されるでしょうから,出題数が減っただけミスしてもよい問題が少なくなったことになりますし,また第2部の出題傾向予想で検討しましたように,総務省の回答の下では,フタを空けてみなければわからない科目になってしまいましたので,逆に従前よりも難しくなったのではないでしょうか。どうか,この科目を侮ることのないようにお願いします。

★ 若干の参考書の紹介

 基礎知識等の学習(復習)は,今までやってこられた方法でやってくだされば足りますので,ここでいくつかの参考書を紹介するにとどめます。

(1) 政治・経済・社会
  @高校政・経研究会編 「新版資料 高校政・経」 令文社
  A桜井久勝著 「会計学入門」 日本経済新聞社

 @は,憲法学界の第一人者であられた故芦部先生が監修されていた頃の伝統を受け継いだ高校の補助教材です。大部ですが,政治・経済・社会の対策用として,ぜひおすすめします。この1月に改訂されたばかりですので,時事対策要としても有用です。
 Aは,企業会計に不安のある方に一読していただきたい文庫本です。

(2) 情報通信
  @高橋・松井編著 「インターネットと法」 有斐閣
  A多賀谷一照編著 「電子政府・電子自治体」 第一法規出版

 @は,昨年5月に改訂されましたので(第三版),日進月歩のインターネットを巡る種々の問題(サイバーポルノ,プロバイダーの責任,電子商取引,コンピューター犯罪,著作権,商標)などが取り上げれており,参考書としておすすめの一冊です。
Aは,試験委員であられる多賀谷先生の編著によるものですが,いささか古くなった感もしますので,機会があれば図書館で一読ということになりましょうか。

(3) 個人情報情報保護
  多賀谷一照著 「要説 個人情報保護法」 弘文堂

 試験委員であられる多賀谷先生の著作です。個人情報の保護に関する法律,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律,独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律の三法を,先生ならではの視点から体系的に再構成された解説書です。

(4) 文章理解
  山本伸二著「短文による現代文読解の速修」研数書院

 文章理解に不安のある方の準備体操用として好適のコンパクトな練習問題集です。



W 最後に − とても大切なこと −

 最後にとても大切なことがあります。
 それは,受験勉強で一番大切なことは,いかに勉強したかではなく,本試験の現場において及第点を確保することができたかということです。
 これを可能にするのは,普段の問題練習しかありません(オリンピックなどのスポーツ選手の場合とまったく同じ!)。

 問題練習において大切なことは,目くらましの問題(過去問題集において「難問」などと分類されている一過性の問題のこと)は当初から無視し,それ以外の誤った問題については,何が原因で誤ったのかを,徹底的に追及されることです。
  例えば,次のようにです。

 @問題文を取り違えたていたのか
 Aそのことは知っていたのだが,この問題では逆に考えてしまったのか
 B間違って覚えていたからなのか
 Cこの件についてはまったく知らなかったからなのか

 ここで重要なのことは,@とAです。というのは,この@とAは,その人の今までの文章生活,その人の性格や思考法に直結するので,これを修正するにはケッコー大変であり,ことに緊張の極致にある本試験の現場ではついついそのような習癖が出てしまうからです。ですから,普段の問題練習の段階から,@とAについては気をつけていただく必要があります。
 これに対し,BとCはこれからもう一度テキストをきちんと学習することで対応できるようになるので,@とAよりもはるかに簡単です。



 おわりに

 以上,少しばかりの先輩として,参考までに思うところを述べましたが,学習され,緊張の極致にある本試験会場に挑まれるのはあなたです。
 どうか,まずはなりふりを構われることなく,あなたのスタイルでお手元の教材に取り組んでください。すると,次第にあなたにふさわしい学習法が確立され,合格への確かな手応えを感ずるようになります。
 行政書士試験は,特別の資質を要する試験ではなく,本気で合格する気になり,本気でそれなりの準備をすれば,誰でも合格できる試験です。がんばってください。




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